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東京地方裁判所 昭和54年(ワ)13114号 判決

原告

矢生光繁

右訴訟代理人

三輪長生

外二名

被告

株式会社日高カントリー倶楽部

右代表者

高橋修一

右訴訟代理人

唐澤高美

外二名

主文

被告は、原告に対し、被告の無額面株式一五八株の株券一株券一二四枚を発行し、別紙第一目録記載の額面株式一五八株の株券と引換にこれを原告に交付せよ。

被告は、原告に対し、別紙第一目録記載の額面株式一五八株を無額面株式に変更した旨株主名簿の書換手続をせよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実《省略》

理由

一被告がゴルフ場の経営及び土地の開発等を目的とする会社であつて、定款によれば、発行する株式の総数は二九八〇株、そのうち額面株式が一二八〇株、無額面株式が一七〇〇株であること、被告がその発行する株式を額面株式と無額面株式に分けた理由は、無額面株式の株主に被告の経営する日高カントリークラブの正会員となる資格を付与しようとすることにあつて、額面株式は主として会社の経営に当る者が、無額面株式は主として日高カントリークラブの正会員になろうとする者が取得していたこと、昭和五三年九月二九日開催の臨時株主総会で定款変更がなされるまで、被告の定款には額面株式と無額面株式相互の変更を禁ずる規定がなかつたため、昭和四一年の商法改正後は、商法二一三条により額面株式と無額面株式相互の変更は法的には自由になされることになつたこと、原告が別紙第一目録記載の被告の額面株式一五八株の株主であること、原告が被告に対し、昭和五三年九月四日発送の内容証明郵便で、原告の所有する別紙第一目録記載の額面株式一五八株を無額面株式に変更するよう請求し、右書面が同月五日被告に送達されたことは当事者間に争いがない。

二被告は、被告が発行し得る株式数は、定款で額面株式数を一二八〇株、無額面株式を一七〇〇株と限定されているところ、昭和五三年九月当時は、額面株式を一二一四株、無額面株式を一五七六株発行していたので、被告の発行し得る株式数は、額面株式六六株、無額面株式一二四株に過ぎなかつた旨主張するのであるが、右事実を認めるに足る証拠はない。

三よつて、抗弁につき検討するに、被告は、額面株式と無額面株式相互の変更請求は、変更しようとする株券を会社に提出してすべきところ、原告は、額面株式から無額面株式への変更請求をするに当つて、変更しようとする株券を被告に提出しないでしたから、原告のした変更請求は無効である旨主張し、原告が変更請求をするに当つて、株券を被告に提出しなかつたことは、当事者間に争いがない。

しかし、額面株式と無額面株式相互の変更について、商法二一三条は「会社が額面株式及無額面株式の双方を発行したるときは株主は定款に別段の定ある場合を除くの外其の額面株式を無額面株式と為し又は其の無額面株式を額面株式と為すことを請求することを得」と定めるに止まり、類似の場合である転換株式の転換について、同法二二二条の五が「株式の転換を請求する者は請求書に株券を添付して之を会社に提出することを要す」と定め、転換請求が書面によるべきこと、且つ書面に株券を添付して提出すべきこととしていることに比し、請求の方法について特定の方法によるべきことを定めていない。

このような商法の規定にもかかわらず、額面株式と無額面株式相互の変更請求にも、転換株式の転換の場合に準じ、請求に株券の提出を要件として付加し、株券の提出なくなされた変更請求を無効とすることは、変更請求をしようとする株主の権利行使を不安定にするものであつて直ちにこれを認めることはできない。

加うるに、転換株式の転換において転換を求める株式を会社に提出させるのは、株主の転換請求により、それまで株主が有していた権利が消滅し、これと異なる権利が形成される結果、それまで株主が有していた権利を表章していた株券も失効するので、これを会社に提出させる必要があるためと解されるのであるが、これに比し、額面株式と無額面株式では株主の権利内容に何等の差異はないのであり、株券上の記載が額面株式となつているか又は無額面株式となつているかに重要性を有せしめる理由はなく、無額面株式と額面株式相互の変更請求により直ちにそれまでの株券を無効としなくてはならない必要性はないから、額面株式と無額面株式相互の変更請求に株券の提出を要件とする根拠はとぼしい。

してみると、額面株式と無額面株式相互の変更請求は、意思表示のみによつてなされ、その意思表示が会社に到達することにより株式変更の効力が生じるものとするのが相当であり、変更すべき株券の提出は、会社が新株券を発行してこれを株主に交付するときに、株主から提出させれば足るものと解される。

四以上によれば、原告のした別紙第一目録記載の額面株式一五八株の無額面株式への変更請求は有効であり、被告は、原告に対し、被告の無額面株式一五八株の株券を発行し、別紙第一目録記載の株式一五八株の株券と引換えにこれを原告に交付し、且つ別紙第一目録記載の額面株式一五八株を無額面株式に変更した旨株主名簿の書換手続をすべきものである。

五よつて、原告の主位的請求は相当であるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(木下重康)

第一目録、第二目録〈省略〉

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